速度には、「平均の速度」と「瞬間の速度」の2種類があります。高校物理を習うまでは、等速度のものばかり扱ってきたため平均の速度と瞬間の速度は区別する必要はありませんでした。しかし、実際に運動している物体は等速度であることのほうが珍しく、ほとんどは速度が変化しています。だから、物理を勉強していく上で、平均の速度と瞬間の速度は区別する必要があります。
平均の速度
平均の速度と平均の速さは全く違う
まず、読者が勘違いしないように平均の速度と平均の速さは全く別物であることを説明しておきます。
それは、速度はベクトルであり速さはスカラーだからです。したがって、平均の速度はベクトル、平均の速さはスカラーになります。(一応言っておきますが、ベクトルは「大きさ」+「向き」、スカラーは「大きさ」のみ)
平均の速さはスカラーであるため、「向き」を考える必要がありません。しかし平均の速度はベクトルであるため、「向き」を考えなければなりません。以下これに注意しながらそれぞれの求め方を説明します。
平均の速さの求め方
平均の速さを求めるときに、平均だからといいすべての「速さ」を足して、その数で割るという意味ではありません。
(例えば、10 m/sで100 m移動し、その後20 m/sで100 m移動したとき、平均の速さは15 m/sになりません。)
平均の速さは、
で求めることが出来ます。
平均の速度の求め方
平均の速度はベクトルであるため「向き」も考えていきます。まず、下の図のような運動を見ていきましょう。
ある物体が青い点線の経路を通り、時間\( \Delta{t} \)で地点Aから地点Bに移動したとしましょう。ここで、経路のベクトルを合成すると橙のベクトルになります。どんなに複雑な経路で地点Aから地点Bに移動したとしても、その経路のベクトルを合成すると、結局地点Aから地点Bに結んだベクトルになります。この橙のベクトルは変位\( \Delta{x} \)といいます。そして、時間\( \Delta{t} \)で変位\( \Delta{x} \)を等速度で移動したとき、この等速度を平均の速度といいます。よって、平均の速度を求める公式は次のようになります。
ちなみに山手線で東京駅を出発し、1周して東京駅に戻ってきたとき平均の速度は0です。なぜなら変位\( \Delta{x}=0 \)だからです。
瞬間の速度
まず瞬間の速さの例をあげると、車のスピードメータがあります。車のスピードメータは、今、この瞬間にどれくらいスピードが出ているかを表わしていまよね。これに「向き」を加えてあげると瞬間の速度になります。
そして、ある物体が時刻\( t \)のとき、どれくらいの速さで、どっちの向きに進んでいるのかが分かれば、その物体の運動を把握していると言えますね。よって、これから物理を扱っていく場合に速度\( v \)といわれたら瞬間の速度のことを表わしていると思ってください。
瞬間の速度の求め方
瞬間の速度を求める前に、次のことを考えてみてください。
ある人の身長を測定し、その10秒後にもう一度測定した。この2回の測定における身長の平均が170cmだったとき、最初の測定では何cmであったと考えられるか。
もちろん誰もが170cmだと思うでしょう。それは、平均をとる時間の期間が短すぎるからです。つまり、身長の平均をとる期間を短くしていくと、その瞬間での身長に近づいていくということです。
これを応用して、(平均の)速度の平均を取る期間を短くしていくと、瞬間の速度になるというわけです。
下の図を見てください。
この図は青い点線の経路を通って、長い期間で地点Aから地点Cへ移動した変位と短い期間で地点Aから地点Bに移動した変位を表わしています。ここで、地点Aでの速度の「向き」は短い期間での変位の「向き」と近いことが分かります。
このように、短い期間で平均の速度を考えてあげることにより瞬間の速度を求めることが出来ます。
よって、瞬間の速度を求める公式は
と表されます。
\( \displaystyle \lim_{\Delta{t} \to 0} \)は\( \Delta{t} \)を0に近づけていくことを示しています。つまり、平均を取る期間をどんどん小さくして瞬間の速度に近づけようということです。(0に限りなく近づけるだけであるため0を代入しているわけではない。)
実際にこの公式を使って瞬間の速度を求めることは高校物理ではありません。しかし、微積分を使った物理をしてみたい人や大学で物理を学びたい人には、瞬間の速度の考え方とともに覚えておいていただきたいです。