§1 運動学~運動を記述する~

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物理現象を記述する

物理学をある程度学ぶと、数式や公式を微積を用いて記述することができると聞くかもしれない。このあたりについて始めに少し触れておく。

より難しい数学を用いるほうが本質的だとか言う声もあるが、筆者はそうは考えていない。しかしながら、物理をやるうえでより高度な数学を扱えるに越したことはないし、様々な角度から議論できたほうが、物理をより楽しむことができるとは思う。食わず嫌いをするのではなく、積極的に数学を使って慣れてもらいたい。

多くの方々が我々の記事から何か得るものがあり、それによって物理の新たな楽しみを発見してもらえたら、幸いである。

 

力学の対象

力学は、力の作用のもとで物体の運動を計算したり、あるいは物体の運動から作用している力を求めることを目的とする。ここではその準備のための説明を行う。言葉による説明が多くなるが、頑張って読んで欲しい。

 

物理学的な「系」

物理現象を扱う際、全ての条件を考慮するのは大変なので、無視してかまわないものは近似してしまうと便利である。物理学では、対象となるひとまとまりのことを系(system)という。系に含まれないものは考察の対象に入らないので、系のとりかたには注意しなければならない。

 

質点

力学では、物体の大きさが現象に本質的に関係しないとみなしてよいとき、質量にのみ着目すればよい。このとき、物体を大きさが無く質量のみある点質点」として考えるのが便利である。つまり、物体の質量がある一点に集中していると考えるのだ。

 

微分するということ

微分することの数学的な意味については、当サイトの「微分積分」の節を見てもらいたいが、ここで物理的な意味を確認しておく。例えば、物理学では「時間で微分する」という操作が多くみられるが、これは「単位時間当たりどれだけ変化するか」という意味である。後で見るように、速度は位置ベクトルの時間微分であるが、これは位置ベクトルが「単位時間当たりどれだけ変化するか」が速度の意味であるということだ。

 

変位・速度・加速度

質点の位置は、選択した座標系に対して

位置ベクトル
\[ \boldsymbol{ r }(t) = ( x(t), y(t), z(t) ) \]
で表すことができる。ここで、選択した座標系の意味は、「観測者が各々自分勝手に\(x\)軸,\(y\)軸,\(z\)軸をとったとき、その座標系で」という意味だ。特に断りが無いときは、直交座標系ということにする。

以下で、この位置ベクトルを用いて変位・速度・加速度について扱っていく。このサイトで、ベクトルはボールド(太字)で書かれるからスカラーとわけることを注意して欲しい。例:\(v\)はスカラーだが、\(\boldsymbol{v}\)はベクトル。

 

速度と変位

運動状態を表す量として、速度を定義する。

時刻 \( t \) , \( t + \Delta t \) での位置をそれぞれ \( \boldsymbol{ r }(t) \) , \( \boldsymbol{ r }(t + \Delta t) \)  とすると、その平均速度は
\[ \bar{ \boldsymbol{ v } } = \frac{ \boldsymbol{ r }(t + \Delta t) – \boldsymbol{ r }(t) }{ \Delta t } \]

今、\( \Delta t \rightarrow 0 \)の極限をとると、これは微分の定義に他ならないから、ある瞬間(時刻\( t \))の速度は次のように表される。
速度 (velocity)

\[ \boldsymbol{ v }(t) = \lim_{ \Delta t \to 0 } \frac{ \boldsymbol{ r }(t + \Delta t) – \boldsymbol{ r }(t) }{ \Delta t } = \frac{ d \boldsymbol{ r }(t) }{ dt } \]

 

加速度

運動状態が単位時間あたりどれだけ変化するかを表す量として、加速度を定義する。すでに述べたように、これは速度を微分するということだから、

加速度 (acceleration)

\begin{align} \boldsymbol{ a }(t) = \frac{ d \boldsymbol{ v }(t) }{ dt } = \frac{ d^2 \boldsymbol{ r }(t) }{ dt^2 } = \left( \frac{d^2 x}{dt^2},\frac{d^2 y}{dt^2},\frac{d^2 z}{dt^2} \right) \end{align}

 

加速度・速度から位置を求める

直交座標系の微分積分は、\( x,y,z \)軸は互いに独立しているので、それぞれについて独立に微分積分を行えばよい。

 

速度から求める

速度\(\boldsymbol{v}(t)\)が与えられているとき、これを時間で積分すれば変位が求められる
すなわち
\[ \int_{0}^{t} \boldsymbol{v} dt = \int_{0}^{t} \frac{d \boldsymbol{r}}{dt} dt = \boldsymbol{r}(t) – \boldsymbol{r}(0) \]
従って
\[ \boldsymbol{r}(t) = \boldsymbol{r}(0) + \int_{0}^{t} \boldsymbol{v} dt \]
ここで、\( \boldsymbol{r}(0) \)は時刻\( t=0\)のときの位置ベクトルで、初期条件という。

速度を積分して求められるのは、位置ではなく位置の差である変位なので、注意して欲しい。また、初期条件は、任意の時刻 \(t_0\) における位置\( \boldsymbol{r}(t_0) \)がわかれば十分である。

 

加速度から求める

加速度\(\boldsymbol{a}(t)\)が与えられているとき、これを時間で積分していけば、速度と変位が求められる。速度と同様に計算すれば
\[ \boldsymbol{v}(t) = \boldsymbol{v}(0) + \int_{0}^{t} \boldsymbol{a} dt \]
ここで、\( \boldsymbol{v}(0) \)は時刻\( t=0\)のときの初期条件である。速度と同様に、加速度を積分して求められるのは、速度ではなく速度の差なので、注意して欲しい。
2つの初期条件 \( \boldsymbol{v}(0) \) , \( \boldsymbol{r}(0) \) が与えられれば、加速度から位置 \( \boldsymbol{r}(t) \) を求めることができる。

 

等加速度運動

特に、\( \boldsymbol{a}(t) = Const. \) であるとき、速度と位置は上の議論の結果として
\[ \boldsymbol{v}(t) = \boldsymbol{v}(0) + \boldsymbol{a}t \]
\[ \boldsymbol{r}(t) = \boldsymbol{r}(0) + \boldsymbol{v}(0)t + \frac{1}{2} \boldsymbol{a}t^2 \]
のように与えられる。\( Const. \)は\( constant \)の略で、「一定」という意味で使う。

今、加速度 \( \boldsymbol{a}(t) = Const. \) としたので、得られた式は等加速度運動の式である。

 

ベクトルの計算

力学をやるうえで知っておくと便利な、ベクトルの計算について簡単にまとめる。

ここでは、一般のベクトル\( \boldsymbol{A,B,C} \)と、\( x,y,z \)方向の単位ベクトル\( \boldsymbol{i,j,k} \)を用いる。

 

ベクトルの内積

二つのベクトルからスカラーを積として作る計算を内積という。ベクトル\(\boldsymbol{A,B}\)の内積は\( \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B} \)と表す。\( \boldsymbol{A,B} \)の間の角度を\( \theta \)とすると

\[ \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B}=AB\cos{\theta} \]

となる。成分表示で書くと

\[ \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B}=A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z \]

 

ベクトルの外積

二つのベクトルからベクトルを作る計算を外積という。ベクトル\(\boldsymbol{A,B}\)の外積は\( \boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B} \)と表す。\( \boldsymbol{A,B} \)の間の角度を\( \theta \)とすると、その大きさは

\[ |\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B}|=AB\sin{\theta} \]

となる。向きについては、右手系を用いた覚え方が簡単だ。「フレミングの左手則」の右手バージョンを作る。親指・人差し指・中指は互いに直交していなければならない。このとき、親指が\(\boldsymbol{A}\)の向き、人差し指が\(\boldsymbol{B}\)の向き、中指が\( \boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B} \)の向きになる。

フレミングの右手則も存在するが、これは電磁気学の法則がベクトルの外積で表されるからだと、後にわかるだろう。外積の向きについては、フレミングの右手則と似て非なるものであることを断っておく。

成分表示をすると、

\begin{align} \boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B}=(A_yB_z-A_zB_y)\boldsymbol{i}+(A_zB_x-A_xB_z)\boldsymbol{j}+(A_xB_y-B_xA_y)\boldsymbol{k} \end{align}

 

ベクトルの微分

ベクトルの微分則について、簡単に確認する。

\begin{align} \frac{d(\boldsymbol{A}+\boldsymbol{B})}{dt}=\frac{d\boldsymbol{A}}{dt}+\frac{d\boldsymbol{B}}{dt} \end{align}
\begin{align} \frac{d(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})}{dt}=\frac{d\boldsymbol{A}}{dt}\cdot\boldsymbol{B}+\boldsymbol{A}\cdot\frac{d\boldsymbol{B}}{dt} \end{align}
\begin{align} \frac{d(\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B})}{dt}=\frac{d\boldsymbol{A}}{dt}\times\boldsymbol{B}+\boldsymbol{A}\times\frac{d\boldsymbol{B}}{dt} \end{align}

また、時間微分した位置ベクトル(すなわち速度ベクトル)はその経路に接することにも注意せよ。